第5章 あなたのことを決して忘れなかった

相葉詩礼視点

白い。何もかもが、白い。

天井も、壁も。鼻腔を焼くような、鋭い消毒液の匂い。頭を動かそうとするけれど、コンクリートでも詰められたかのように重かった。

「あなたはとても幸運でした。あと数分遅れていたら、助けられませんでしたよ」

手術着を着た医師が、私のカルテを確認している。その声はまるで水の中から聞こえてくるかのようだ。

「目が覚めたぞ」

別の声だ。低く、穏やかな響き。ゆっくりと首を向けると、ベッドの隣の椅子に男が座っていた。四十代半ばだろうか。普通の人間がひと月で稼ぐ額より高そうなスーツを着ている。けれどその目は、何日も眠っていないかのように疲れていた。

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