第5章 あなたのことを決して忘れなかった
相葉詩礼視点
白い。何もかもが、白い。
天井も、壁も。鼻腔を焼くような、鋭い消毒液の匂い。頭を動かそうとするけれど、コンクリートでも詰められたかのように重かった。
「あなたはとても幸運でした。あと数分遅れていたら、助けられませんでしたよ」
手術着を着た医師が、私のカルテを確認している。その声はまるで水の中から聞こえてくるかのようだ。
「目が覚めたぞ」
別の声だ。低く、穏やかな響き。ゆっくりと首を向けると、ベッドの隣の椅子に男が座っていた。四十代半ばだろうか。普通の人間がひと月で稼ぐ額より高そうなスーツを着ている。けれどその目は、何日も眠っていないかのように疲れていた。
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チャプター
1. 第1章 心配しないで、誰にも傷つけさせない
2. 第2章 お互いを信頼できるかもしれない
3. 第3章 この人生に疲れたらどうする?
4. 第4章 もう続けたくない
5. 第5章 あなたのことを決して忘れなかった
6. 第6章 まるで過去の亡霊のようだ
7. 第7章 誰かに言ったら殺す
8. 第8章 一生君を守ると誓う
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