第6章 まるで過去の亡霊のようだ
相葉詩礼視点
桐生隆一のオフィスに掛かる時計の針が、午後二時を指そうとしている。もう二十分も、同じ契約書の束を意味もなくいじくりまわしている。手がひどく震えて、書類をまともに持つことすらできない。
「詩礼、この打ち合わせ、本当に大丈夫か? 昨日から様子がおかしいぞ」
桐生隆一は、パソコンの画面に映る私を見ながら、ネクタイを締め直した。
「大丈夫です。ただ、これほど大きなクライアントですから、少し緊張していて」
大きなクライアント。この「クライアント」が、かつて私を永遠に愛すると誓った男だとは、彼も知る由もないだろう。五年前、私が破滅させた、その男本人だとは。
「この赤坂と...
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チャプター
1. 第1章 心配しないで、誰にも傷つけさせない
2. 第2章 お互いを信頼できるかもしれない
3. 第3章 この人生に疲れたらどうする?
4. 第4章 もう続けたくない
5. 第5章 あなたのことを決して忘れなかった
6. 第6章 まるで過去の亡霊のようだ
7. 第7章 誰かに言ったら殺す
8. 第8章 一生君を守ると誓う
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