第6章 まるで過去の亡霊のようだ

相葉詩礼視点

桐生隆一のオフィスに掛かる時計の針が、午後二時を指そうとしている。もう二十分も、同じ契約書の束を意味もなくいじくりまわしている。手がひどく震えて、書類をまともに持つことすらできない。

「詩礼、この打ち合わせ、本当に大丈夫か? 昨日から様子がおかしいぞ」

桐生隆一は、パソコンの画面に映る私を見ながら、ネクタイを締め直した。

「大丈夫です。ただ、これほど大きなクライアントですから、少し緊張していて」

大きなクライアント。この「クライアント」が、かつて私を永遠に愛すると誓った男だとは、彼も知る由もないだろう。五年前、私が破滅させた、その男本人だとは。

「この赤坂と...

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