第114章

温井知絵は反射的にスマホを胸元へ押し当てた。

「社長、おはようございます!」

「小沢秘書、おはようございます!」

明るい調子で挨拶し、笑みも一見自然だった。けれど口元のわずかな強張りが、胸の内の緊張を漏らしている。

視線がふわりと東堂彦一の胸元をかすめた瞬間、昨夜の光景が火花みたいに脳裏で弾けた。――彼に腕を引かれ、胸に引き寄せられ、手首を掴まれたまま耳元へ落とされた低い囁き。

途端に耳の奥が熱くなる。

「……おはよう」

東堂彦一は淡々と返した。

静かな佇まい。冷ややかな横顔は、磨き上げられた氷の面みたいに美しい。

温井知絵は彼の後ろへ回る。

落ち着け。

そっと深呼吸し...

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