第120章

心臓がばくばく跳ねていたのに、次の瞬間には水面みたいに凪いだ。

まるで冷たい鎮静剤を一本、体と脳に打ち込まれたみたいに。内側がすうっと静まっていく。

もう悩まない。

今は勤務時間外だ。聞こえないふりをする権利くらい、彼女にだってある。

東堂彦一はゆっくりと首を巡らせ、目の前に立つ白石郁美を見た。

眉間には濃い霧と黒雲が居座っている。お見合いの日の温和で礼儀正しい顔ではない。薄氷を一枚まとったような冷たさで、口を開く。

「白石さん」

「またお会いできて嬉しいです」

白石郁美も彼の険しい顔色には気づいていた。それでも、自分から愛想よく出れば、少しは表情が和らぐはずだと踏んでいたの...

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