第139章

「貸すよ」

「……返せない!」

「分割でいい」

「……」

温井知絵はスプーンを握ったまま、親指で柄をカリカリといじった。ほんの一瞬、心がぐらりと傾く。けれどすぐ、自分で自分を叱りつけて正気に戻る。

――何を考えてるの。

月を取ってくるみたいな話、バカバカしい。

胸の奥の不安を押し殺し、知絵はどんぶりのワンタンを箸でつつきながら、わざとらしいほど硬い声で話題を変えた。

「ねえ、このワンタンって何の餡? 豚? 牛? 全然わかんないんだけど」

東堂彦一が、思わず鼻で笑った。

自分のどんぶりのワンタンを、スプーンですくって丸ごと彼女のほうへ寄せる。

「わかんない? 全部、臆病者...

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