第144章

その「夏希」は、彼の胸元で左右に動く白く細い小さな手を見下ろした。

「胸、ないの? もっとちゃんと探してみれば」

――この、低くて艶のある声。

左右にさまよっていた手が、ぴたりと止まる。左胸の上。掌の下には小さな出っ張りがあって、全体は平らで、硬く、張りのある胸板で……。

温井知絵は目が覚めた。

いや、違う。叩き起こされた。

雲の上から一気に、煮えたぎる地獄へ投げ込まれたみたいに。

目を開けられない。

乗ったのは自分の車で、夏希にもたれて寝たはずだ。なのに、起きたら人が違うってどういうこと。

これ、ワンナイトの翌朝に「相手、間違えた」って気づくのと何が違うの。

「探さない...

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