第158章

「小沢諒」

知絵はやわらかな声で彼の名を呼んだ。ふっくら赤い頬に、どこか不自然な色が差している。

「今日のネクタイ、スーツとあんまり合ってないかも。替えてきたら?」

その一言で小沢諒の意識がそちらへ引っ張られ、思わず自分の胸元を見下ろす。

「え、そう? 合ってない? じゃあ、どんな色が――」

顔を上げたときには、もう彼女の姿はなかった。

小沢諒は眉をひそめる。今日の知絵、なんだか変だ。

温井知絵は自分のオフィスへ戻った。

デスクチェアの横まで来た瞬間、ヒールがカーペットに引っかかり、身体がぐらりと傾く。そのまま椅子にどさり、と落ちた。

目の焦点が合わない。

耳の奥で、小沢...

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