第172章

「……私」

温井知絵はきょろきょろと周囲を見回し、声を落とした。

「妊娠が怖いの。私たち、2回とも……つけてないし。昨日なんて、あなた、水の中でどうしてもって……」

東堂彦一は、長い沈黙で返した。

知絵はまだ落ち着かない。知り合いに遭うのが怖いし、誰かに注目されて、こっそり撮られるのも嫌だった。東堂彦一は目立ちすぎる。今どきは通りすがりの花や小動物ですら撮られる時代だ。

そのとき、ふっと身体が浮いた。

次の瞬間、彼の腕の中。

「え……!」

東堂彦一は知絵を抱き上げたまま、歩き出す。

「ちょ、下ろして!」

昨夜は暗くて人も少なかった。でも今は病院だ。お姫様抱っこなんて、派手...

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