第183章

温井知絵の鼻歌が、ふっと音程を外した。

昼に飲みすぎて、午後はずっと雲の中みたいにぼんやりしていた。彼は「オフィスで休んでいろ」と言ってくれて、退勤の時間になったら社長室へ来い、と。もう帰っていい、と。

……今日は、もう会わないと思っていたのに。

助手席に置いてあった買い物袋を手に取り、車を降りる。彼のほうへ歩いた。

「社長、こんな時間にどうしたんですか」

目の前で立ち止まり、あくまで何でもない口調を作る。

道で上司にばったり会ったときの、あの愛想のよさ。中身の九割は薄っぺらい作り笑い。

木の下は少し暗い。けれどすぐ脇に街灯があって、ぼんやりと互いの表情くらいは見えた。

温井...

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