第189章

温井知絵は血の気が引いた。

どこからともなく冷たい風が吹き込み、さっきまで胸の奥に残っていた甘い余韻を、容赦なくさらっていく。

彼女は前方に立つ安部美波を、静かな目で見つめた。凛として、近寄りがたいほど冷ややかな佇まい。

その冷気がじわじわと心臓にまで染み込み、知絵は小さく息を吐く。

……もう一晩だけ、酔って夢を見続けるなんて、許されない。

猫に会いたい。

もう一度だけ、甘い夢を見たい。

欲張るつもりなんてない。強請るつもりもない。

けれど――会長夫人の我慢は、どうやら限界だった。

「あなたたち……」

安部美波は、二人が繋いだ手を食い入るように見つめていた。必死に平静を装...

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