第197章

あまりにも突然の出来事だった。

たとえ腹の探り合いに長けた策士だろうが、ちょっとした一言で火がついて罵り合うような猛者だろうが、階段で――しかもこの程度の言葉の応酬で――人を突き落とそうとするなんて、普通はしない。

後先を考えなさすぎる。

けれど温井知絵は、洛川朱音が手を上げた瞬間にピンときた。伸びてきた腕を、身体を半歩ずらしてかわす。

空を切った朱音の手。勢いのまま、本人が前のめりに落ちかけた。

「きゃああ――!」

悲鳴が弾ける。

墨田英里子が娘の腕を掴もうと手を伸ばし、もう片方の手で、呆然としていた安部美波をとっさに引き寄せた。支えにするつもりだ。

だが美波は細く、力もな...

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