第220章

東堂彦一「……」

部屋の中から誰かがひょいと顔を出して様子をうかがった。

一瞬、温井秘書が酔って社長に平手打ちでもかましたのかと思ったらしく、驚いてグラスの酒までこぼしている。

――だが、社長は怒っていない。

むしろ頭をぐっと下げ、さらに少し横に傾けた。まるで……手にキスでもするみたいに。

殴られておいて、キス?

「なあ、食わせるならもうちょい優しくしろよ」

低く艶のある声が、彼女の指の隙間から漏れてくる。夜風に混じって、どこかぼんやりと霞んだ響きだった。

温井知絵は幼い仕草でぱちぱちと瞬きをして、手のひらをもう一度、ぐいっと彼の口に押し当てた。

「古狸、ちゃんと食べて。痩...

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