第27章

「車、呼んであります」

「キャンセルすりゃいいだろ」

伊藤良国は車から降りるなり、にこにことした顔で有無を言わさず彼女のスーツケースを取り上げ、トランクへ放り込んだ。

高級車でなければ、通りすがりの人間は温井知絵が強奪されていると勘違いしたに違いない。

伊藤良国が後部座席のドアを開けてみせる。

「さあ。遠慮すんな、ついでだ」

年上にドアまで開けられて、温井知絵はさすがに気まずくなった。とはいえこの勢いを断れず、素直に礼を言って車内へ滑り込む。

乗り込んだ瞬間、反対側の席に東堂彦一がいるのが目に入った。

今日はかっちりした装いではない。淡いブルーのシャツに黒のパンツ、黒革靴。ネ...

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