第32章

長い腕が、倒れかかる身体をさっと受け止めた。

「安部美波。酔ってないのは分かってる。芝居はやめろ」

東堂彦一の堪忍袋の緒が切れた。

安部美波はゆっくりと目を開く。瞳は冴えきっていて、恨みがましい視線で彼を見上げた。

「……本当に、そう決めつけるの?」

「その台詞はこっちのだ。ちゃんと座るか、今すぐ降りろ」

冷えた声。圧が、刺すように重い。

本気で怒っている。

運転席の運転手は息を殺し、温井知絵は思わずルームミラー越しに盗み見た。

安部美波は意地を張るように、霧のかかった瞳を見開いたまま、必死にこらえている。涙だけは落とすまいと。

「停めて!」

突然の叫び。

だが運転手...

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