第43章

温井知絵は、言葉を失った。

白瀬冬弥が邪魔をしてくるのはまだしも、どうして安部美波まで火事場泥棒みたいな真似をするのか。

しかも――昨夜の件で東堂彦一の前で彼女が恥をかかないよう、こちらが逃げ道まで用意してやった、その直後に、だ。

恩を仇で返すにもほどがある。

東堂彦一は表情を崩さないまま、彫りの深い艶やかな瞳だけが、さっきまでの柔らかさを失って沈んだ色を帯びた。誰でもなく、温井知絵だけを見据える。

「辞めたいのか?」

「辞めたくありません!」

温井知絵は即答した。

もうすぐ白瀬冬弥とは離婚する。――いや、離婚しないとしても、彼に勝手に決められる筋合いはない。

白瀬冬弥の顔...

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