第53章

「そう興奮しないで。おばさま、ただ仲よくなりたかっただけなの」

九条花奈は弱々しい声に、ひやりとした陰を滲ませる。

「だってね、私、最終的には白瀬家に入るんだもの。呼び方だって変わるでしょ? あなたのこと――お母さんって。ねえ、お母さん」

甘ったるい呼び声。

けれど江崎千恵は、背筋から凍りついた。

いま自分は、悪鬼に取り憑かれたのだ。そんな確信めいた予感があった。

息子も、白瀬家も、この悪鬼にかき回されて、平穏など跡形もなくなる――。

最初から受け入れるべきじゃなかった。

後悔しても、もう遅い。

五日後。

温井知絵の脚の傷は、ほとんど治っていた。

ここ数日、拍子抜け...

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