第54章

「もう話す必要はありません。彼は離婚協議書にサインしました。会長が説得なさるなら、残りの手続きまできちんと済ませるように――そう言ってください。これで私は彼とも、白瀬家とも、きれいさっぱりです」

温井知絵の声は凪いでいた。

まるで他人事だ。

自分が真心を差し出し、無残な結末と引き換えにした結婚の話だというのに。

賭けに負けたのは自分。そこは認める。恨み言も言わない。

だが、傷が癒えたふりをして痛みを忘れるほど、彼女は都合よくできていなかった。

電話の向こうで、白瀬海山がしばらく沈黙する。

「まずは来なさい。君の気持ちがどうであれ、離婚は君ひとりの意思で成立するものじゃない。夫婦...

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