第56章

「冬弥お兄ちゃん!」

すれ違った白い車の後部座席から、九条花奈が窓を下ろして叫んだ。隣には江崎千恵が座っている。

白瀬冬弥は聞こえていないわけでも、見えていないわけでもない。なのに、いっさい取り合わない。前だけを見据えた目は冷えきっていて、どこか危うい光を宿していた。

「九条花奈が来てるわ。呼んでるの、聞こえないの?」

温井知絵が促しても、白瀬冬弥は微動だにしない。

九条花奈は遠ざかる車を見て、苛立ちに任せて停まれと叫び、ドアを開けて飛び降りた。追いかけながら白瀬冬弥に電話をかける。

鉄門の外まで一気に駆け、去っていく車に向かって金切り声で喚き散らした。通りすがりの人間が見れば、...

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