第60章

「は……」

しばらくして、温井知絵の喉からこぼれたのは、かすかな笑いだけだった。

怒りで言葉すら失った――そんな笑い。

電話の向こうで、まだ返事を待っていた矢野芹歌が息を呑む。

「……笑ってる場合? どうして笑えるのよ! 白瀬家、九条花奈のイメージ回復のために、汚いもの全部あんたに押しつけてきたんだよ? それで我慢できるの?」

「慈善ディナーのときの勢い、出しなよ。思いっきりぶん殴り返してやりな!」

「連中まとめて片づけてやれ!」

ついに、口が悪くなった。

いつもは甘く上品で、柔らかな口調を崩さない――星野市社交界のアイドルが、だ。

温井知絵は自嘲気味に言う。

「……もし...

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