第62章

白瀬冬弥が来た。

九条花奈は彼の姿を認めるなり、瞳の奥がぱっと華やぐ。

「冬弥お兄ちゃん!」

弾むように立ち上がり、駆け寄ろうとした――そのとき。

まだ三メートルも離れているのに、白瀬冬弥は蛇でも払うみたいに手を突き出して制し、目の底に濃い嫌悪を沈めた。霧のように重く、晴れない。

花奈を避けるように身をかわし、九条家の面々には視線すら向けないまま、大股で両親の前へ。江崎千恵に向かって吐き捨てる。

「誰が、そんな根も葉もない話をでっち上げろって言った。俺がやらかしただけじゃ足りないのか。それとも、俺がまだ十分に卑劣じゃないとでも?」

江崎千恵は言葉を失い、息を呑んだ。瞳孔がかすか...

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