第74章

彼女は大きなベッドのそばまで歩み寄り、寝台から一メートルほど手前で足を止めると、いかにも気遣うふうに言った。

「社長、お怪我の具合はいかがですか?」

わざわざ敬語を使ったのは、命の恩人への敬意を示すためだ。

――けれど、恩人は彼女を一瞥すらしなかった。

温井知絵はその場で固まる。

黙って、彼が口を開くのを待つしかない。

東堂彦一は本を読んでいた。長いまつげが伏せられ、彼女がノックしてから今この瞬間まで、まぶたひとつ上げない。

およそ一分。

白く骨ばった長い指が、ゆったりとページをめくる。見惚れるほど端正な所作。

「温井秘書。心配するのが遅すぎるとは思わないのか?」

ようや...

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