第80章

温井知絵もすぐに立ち上がり、笑みを浮かべてそのグラスを取った。

「うちの社長、風邪でお酒は飲めないんです。代わりに私がいただきます」

そう言いながら、口をつけようとする。

グラスが唇に触れる寸前、骨ばった白い手がすっと伸びてきて、彼女の手から酒を取り上げた。

「君が飲む必要はない。座れ」

淡々とした声なのに、なぜだか庇うような響きが混じっている。

東堂彦一はそのまま酒をテーブルへ戻した。

個室が、ぴたりと静まり返った。

白瀬冬弥は、手の中のグラスを握り潰しそうな勢いだった。

ほかの連中の表情もまちまちだ。含みのある顔、わずかに眉をひそめる顔、見て見ぬふりを決め込む顔。

温...

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