第85章

温井知絵は「はい」と頷いた。

原野真治がどうせ碌なことを考えていないのは分かりきっている。東堂彦一を、酒と女の泥沼みたいな場所へ引きずり込みたいのだろう。そんなの、彼女が真っ先に反対だ。

――けれど、と思い直す。

彼の頭の回転なら、いちいち私が忠告するまでもない。

温井知絵は羽鳥智久にメッセージを送り、東堂彦一の言葉を伝えた。

「まだ時間あるし、少し歩こう」

東堂彦一が向こうで言う。

送信してから顔を上げた温井知絵は首を振った。

「行かない。もうすぐ暗くなるし、山の中を一人でうろつくのって怖いよ。私は別荘にいる」

言い終えた瞬間、東堂彦一の表情が微妙に変わったのに気づく。す...

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