第86章

温井知絵は眉をぴくりと跳ね上げた。

――こいつか。

ふん。原野のジジイ、そういう手で来たか。

東堂彦一が向こうへ歩いていく。

温井知絵はついていかなかった。名目はワインのテイスティングだ。そこへ割って入って酒席を遮るのは不自然だし、うっかり「十一人目の美女」扱いでもされたら目も当てられない。

手だの脚だのに触られたら、たとえ東堂彦一が庇ってくれても、損をするのはこっちだ。かといって、瓶で殴るわけにもいかない。

それに今夜の彼女には、もっと重要な任務がある。――こいつらを監視すること。社長の酒に、こっそり何か混ぜられないように。

温井知絵は、部屋全体の動きが見渡せて、しかも不自然...

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