第89章

温井知絵は力なく言った。

「果物しかないよ……」

東堂彦一は眉間の皺をほどき、なるほど、というふうに小さく頷いた。

――食べないのかと思ったのに。

次の瞬間、彼は電話をかけ、食材を持ってこさせた。

いま何時だと思ってるの。

どれだけ腹ペコなのよ。

食材が届いて、彼女が手早く作り終えた頃には、もう11時を回っていた。

東堂彦一は、やけに美味そうに食べる。

それを見ているうちに温井知絵は、もしかして自分の料理、過小評価しすぎてたのでは……と錯覚しはじめた。伊藤おじさんの腕前より上なんじゃない? このままミシュランで天下取れるかも、みたいな。

11時45分。

眠気が限界だった...

ログインして続きを読む