第90章

東堂彦一「……」

ひと呼吸の沈黙のあと、彼は眉をつり上げた。

「お前、わざと仕返ししてないか?」

「誓って違います!」

温井知絵は胸を押さえ、痛恨の面持ちで訴える。

「これは社長を助けてるんです! 私以外に、ここまで本気で助けられる人がいますか? 氷を運ぶのだって楽じゃないんですよ? それをそんな言い方……私、ほんと傷つきました!」

表情はやたら大げさ。

まるでこの世の不条理を一身に背負ったみたいに。

東堂彦一は腕を湯――いや、氷水から持ち上げ、浴槽の縁にだらりと乗せた。

「じゃあ、その献身に礼を言うよ。『年間ベスト気配り秘書賞』でも授与しようか?」

「くれるなら、ありが...

ログインして続きを読む