第97章

温井知絵は、泣くよりもひどい笑みを浮かべた。

あんな大会、誰が出たいというのだ。

「私、もっとマシなのに出ちゃダメなの……?」

顔を上げた声は、糸みたいに細い。

「もちろん」

東堂彦一は迷いなくうなずいた。微笑んだ瞳の奥に、きらりと星が灯る。低くてまろい声は、甘い酒みたいにやさしい。

「君が出たいと思うなら、何だって出られる」

温井知絵は、まだ踏ん張れるはずだった。泣きべそをかいて笑いものになるのは性に合わない。

けれどこの瞬間だけは――わがままでもいい、弱くてもいい、甘やかされてもいい。胸の奥から湧いた熱が、酸っぱくて、あたたかくて、必死に張っていた防壁を洗い流した。

目...

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