第3章

昨夜のカレブの目――あれが、頭の中でぐるぐる回り続けて、一晩じゅう離れなかった。

あの感覚は、どうにも奇妙だ。

彼に惹かれている。そこだけは否定できない。全国のモデルが霞むほどの顔立ちに、反則級の強靭な身体。心が動かないほうが聖女だろう。

けれど同時に、私は冷静な顧客でもある。大金を支払った、正当な権利を持つ客だ。

私が欲しいのは、心と身体、両方の価値を提供できる伴侶。なのにカレブは、ただ眺めることしか許されない氷山だった――それも、いつ崩落してもおかしくない、ひどく不安定な氷山。

落ち着くためには、線引きが必要だ。

翌朝、カレブと市内最大のスーパーへ買い出しに出た。

店内は冷房が効きすぎているくらいで、肌がひやりとする。私が先を歩き、彼が後ろでカートを押す。

私は意識して、彼との接触を全部避けた。棚の上段のオートミールを取ろうとしてカレブが手を伸ばした瞬間、反射的に私は大きく一歩、後ろへ退いた。

カレブは終始、無言だった。

それでも、背中に突き刺さる視線だけははっきりと分かった。まるで、背骨まで焼き抜かれそうなほどに熱い。

レジで会計をしていると、ふくよかなレジ係の女性が手慣れた様子でバーコードを読み取りながら、私たちをひと回り見て、ふっと艶っぽく笑った。

「まあ、あなたたち、本当にお似合いね。結婚記念日かしら?」

心臓が、ひどく跳ね損ねた。

お似合い。結婚。

昨日までなら、そんな言葉に頬が熱くなったかもしれない。けれど今の私には、それが禁忌の導火線みたいに聞こえた。

私はほとんど反射で声量を上げた。

「いいえ、誤解です。私たち、そういう関係じゃありません」

そして、場に漂う奇妙な色気を断ち切るように、わざと一歩、横へと距離を取って冷たく付け足した。

「彼は、私が雇っている護衛です。私の安全を担当しているだけ。それ以上でも、以下でもありません」

レジ係の笑みが顔に貼りついたまま固まり、空気が一気に凍った。

周囲の空気が、瞬間的にごっそり抜け落ちたみたいに。

「ギリ――」

カレブが握っていた缶コーヒーが、硬い音を立てて歪んだ。亀裂から褐色の液体がじわりと滲み出す。

彼はレジ係を見もしない。ゆっくりと首を回し、漆黒の瞳で私を射抜いた。

私は唾を飲み込み、無理やり視線を逸らして、買い物袋を掴み、足早に外へ出た。

勝ったのは私だ。線引きだってできた。なのにどうして胸の中だけが、ぽっかり空洞みたいに冷えて、息苦しいんだろう。

帰りの車内は、まるで漆黒の闇に閉じ込められたように、重苦しい沈黙が支配していた。

私は機関の仕事の速さを甘く見ていた。アパートの玄関を開けた瞬間、リビングのど真ん中に――見知らぬ若い狼人が立っていたのだ。

眩しい金髪。体格はカレブほど規格外ではないが、十分に目を引く。そして何より、彼が身につけているのは、昨夜私が買った、少し小さめのチェックのシャツだった。

襟元ははだけ、白い鎖骨が覗いている。丈は太ももを辛うじて隠す程度で、全身から「従順」が滲み出ていた。

私の新しい伴侶、リアム。性の奉仕を担う、そういう種類の伴侶。

私が入ってきたのを見るなり、リアムの目がぱっと輝いた。碧い瞳の奥に、露骨な媚びが浮かんでいる。

迷いは一切ない。彼はまっすぐ近づいてきて、玄関のマットの上に片膝をついた。

見上げて、甘ったるい笑顔。

「ご主人様、お帰りなさいませ。ずっとお待ちしていました」

その瞬間、本来なら満たされるべきだった。これこそ伴侶だ。従順で、気が利いて、いつでも私にキスする準備ができている。

なのに背後で、鈍い大きな音がした。

ドン、と。

カレブが玄関口を塞ぐように立ち、目を細める。

「これが昨日言ってた、新しい友達ってやつか? この家で、こんな……役立たずを飼うつもりか」

胸の奥で、何かが決壊した。ここ数か月、彼に放り投げられていたみじめさが、一気にせり上がる。

私は背筋を伸ばし、真正面からその目を見返した。

「役立たずじゃない。彼は私の伴侶よ。どっちも私のために働くの。一緒に住んで、役割分担して、何が悪いの?」

わざと、「役割分担」を強く言った。

「あなたは私の安全。彼は私の……気分。公平でしょ」

カレブは怒りの極みで、逆に笑った。その笑みは骨の芯まで冷たかった。

それ以上、何も言わない。

彼は床に跪くリアムを踏み越えるように通り過ぎ、凄まじい殺気をまとったまま、まっすぐキッチンへ向かった。

夕食の空気は、息が詰まるほど重苦しかった。

カレブが料理を並べ、皿をテーブルに叩きつける。勢いでスープが跳ねた。

リアムは甘えた猫みたいに、ずっと私に身体を寄せてくる。挙げ句、私のステーキを切ろうと手を伸ばしさえした。

「ご主人様、食べさせて差し上げましょうか? 焼き加減、ちょうどいいですよ」

テーブルの向こうで、カレブのフォークが皿を擦り、耳障りな音を立てた。

食後、私はもう耐えられなかった。逃げるように自室へ飛び込む。

ベッドに腰を落とすと、心臓が異様な速さで打っていた。

望みどおり、性の伴侶を手に入れたはずなのに。どうして頭の中が、カレブでいっぱいなんだ。

端末を開き、指を震わせながらサポートへメッセージを打つ。

「カレブの詳しい素性を教えて。彼の縄張り意識のせいで、生活に深刻な支障が出ています。彼の禁忌をすべて知りたい」

画面にはずっと「入力中……」が出たまま、返事が来ない。

その「わからない」が、私の神経をひりつかせた。

私は彼が怖いのか、それとも――何かを期待しているのか、自分でも判別できない。

喉が渇いてキッチンへ行こうと部屋を出ると、カレブの部屋の扉が半開きになっていた。

気づけば私は、引き寄せられるようにその扉を押していた。

部屋の灯りはついていない。窓から差し込む月光だけが、広いベッドを淡く照らしている。

カレブはベッドの縁に腰掛けていた。上半身の裸の背中が、ひどく孤独に見えた。

その姿を見て、胸がちくりと痛む。リアムを迎えたことが、彼を不快にさせたのは明らかだった。

私は息を殺し、慎重に口を開く。

「カレブ……リアムを買ったのには、別の理由があるの。怒らないで。何か、埋め合わせを――」

「埋め合わせ?」

彼はゆっくり立ち上がり、一歩、また一歩と私に迫った。

壁際まで追い詰められる。彼の両手が、私の顔の左右に突かれ、影が完全に私を覆った。

低い声が、耳元を刺す。

「アリア。本気で埋め合わせしたいなら、その金髪のくそ野郎を今すぐこの家から叩き出せ」

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