第5章 真の身分の衝撃

水曜の午後、私と水原涼は区役所へ向かい、さくら荘の歴史的建造物保護申請を提出しようとしていた。ここ二日、私たちは資料集めに奔走していたが、水原涼の専門知識のおかげで、申請手続きは予想以上に順調に進んでいた。私の心にはまだ、法的な手段で私たちの家を守れるかもしれない、という淡い希望が灯っていた。

さくら荘の玄関から一歩出た、その時だった。一台の黒塗りの高級車が、突然目の前に停まった。ドアが開き、仕立ての良いスーツを着こなした中年男性が降りてくる。その佇まいは田村のような零細デベロッパーとはまるで違い、真の権威というべきオーラを放っていた。

私は無意識に水原涼の隣へと身を寄せたが、彼の...

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