第27章

沈村薫子は、観念したように松野博の後ろについて二階へ上がった。

二人で二階の広い廊下を進んでいると、松野博がふいに足を止め、振り返る。

「一杯、飲むか?」

あまりに唐突なひと言に、沈村薫子は眉を上げた。視線がその顔に落ちる。

「まだ飲むんですか?」

「知り合いにもらったんだ。ロマネ・コンティの特級畑。世界で200本もないらしい」

両手をポケットに突っ込んだまま、松野博は至って真面目な顔で言う。禁欲的なその面差しには、妙なまでにやましさがない。

「薫子は、暮らしの質にはうるさいって聞いた。試してみるか?」

世界限定。

しかも特級畑。

その二語が出た瞬間、沈村薫子の目がぱっと...

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