第36章

広々として明るいオフィス。松野博正はデスクチェアに腰掛けていた。

物音に顔を上げる。

沈村薫子の姿を認めた瞬間、深い淵みたいに冷たかったその瞳が、目に見えて和らいだ。纏っていた「上の人間」の圧も、すっと引いていく。

「できたか?」

彼女の手に提げられたものを見て、声をかける。語尾に、ほんのわずかな愉しさが滲んでいた。

「はい」

沈村薫子は近づき、服を差し出す。自然な流れで続けた。

「松野様、サイズが合うか試してみてください。それと……今夜、お時間ありますか? あの夜のお酒のことと、このところ色々とお世話になったお礼に、お食事をご馳走したくて」

松野博は立ち上がり、彼女から服を...

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