第70章

沈村薫子は、もう退く場所がなかった。背中をふわりと柔らかなソファの背にもたれさせ、松野博の大きな体が落とす影の中に、すっぽりと沈み込む。

「松野様……」

呼吸を整えようと必死になりながら、薫子は言った。

「あなた……あなた、いったいどうしたんですか?」

松野博は、ただ彼女を見つめた。

凛として冷たいはずの瞳が、今は怯えと戸惑いで揺れている。

その瞬間、彼の胸がどくんと脈打つ。

嫉妬。怒り。狂いそうな独占欲。

それらが一気に噴き上がり、限界まで張り詰めた。

……笑えてくる。

この女は、どうしてこんなにも堂々としていられる?

喉仏がごくりと上下する。薄い唇がわずかに開き、掠...

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