第71章

夜が更け、街の灯がひとつ、またひとつと灯り始める。

T市でもっとも栄えた中心部にある、最高級の会員制プライベートクラブ――J区。

喧騒のただ中にありながら、そこだけが妙に静かで、隠すことを前提にした贅沢が息をしている。

沈村薫子は松野博の後ろについて、人気のない回廊を歩いた。足音さえ吸い込まれそうな絨毯の上を進み、ひとつの個室の前で立ち止まる。

係の者が深々と頭を下げ、扉を押し開けた。

ふわり、と沈香の匂いが鼻先を撫でる。

薫子は、ただの会食だと思っていた。自分と松野博、それから舟川の広報責任者――三人で、話をするだけの場。

けれど扉が大きく開いて、内側の光景が視界に入った瞬間...

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