第81章

沈村芳明の顔が、ようやく沈んだ。茶碗を卓に置くと、重くも軽くもない音が「コトン」と響く。

「彼はお前の弟だ。お前の身体にも、あいつと同じ血が流れている。救うのは当然だ」

「弟なんかいない!」

沈村薫子は、ほとんど叫んでいた。

「母は私しか産んでない! 沈村一樹は、あんたの不倫の産物でしょ。あいつが病気だからって、なんで私の骨髄を抜くの。あんたが私を産んだってだけで?」

「松野博を持ち出せば、俺を脅せると思ったか」

怒りで全身が震える。けれど薫子は無理やり顎を上げ、言葉を噛み砕くように叩き返した。

「松野博は甘くない。T市でどんな立場か、あんたのほうが分かってるはず。出てきたら、...

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