第82章

彼女はよろめくように半歩前へ出て、両手で机の縁を突いた。

「私と松野博は、あなたが想像してるような関係じゃない。……彼を盾にして脅したって、意味ないから!」

沈村薫子には分からなかった。どうして彼が、自分と松野博のことを知っているのか。

沈村芳明は黙ったまま、薫子を見つめている。

今の彼の立場なら、T市のこの界隈で――視線ひとつ、手を上げる仕草ひとつで、誰かが先回りして動く。勝手に忖度し、勝手に片づけ、勝手に障害を消していく。

説明など必要ない。彼自身、誰かに弁解することを、昔から鼻で笑ってきた。

けれど沈村一樹の病気、その件だけは別だった。

手の打ちようがない。

だから最後...

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