第83章

黒い制服に白手袋をはめた中年の男が、足早に入ってきた。

視線が沈村薫子に落ちると、男はわずかに腰を折る。

「お嬢さん、そろそろお時間です。沈村様がお待ちです。あの方は、人を待たせるのを好みません」

その一瞬で、沈村薫子の顔色は、透けるほどに抜け落ちた。

はっと我に返ったように、彼女は慌てて半歩、後ずさる。

「……分かったわ」

松野博の瞳孔が、きゅっと縮む。

彼女の目の奥に、今にも溢れそうな動揺と絶望、そして――諦めきったような死んだ静けさがあるのを見て、胸の奥に嫌な予感が差し込んだ。

沈村薫子は保釈の書類の束を松野博の手に押し込む。乱暴と言っていいほどの勢いで。

「あなたた...

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