第84章

外では、沈村芳明が老境に入ってからようやく授かった子がいる――五十を過ぎて手に入れた宝物のような息子、沈村一樹の存在しか知られていない。

目に入れても痛くないほど溺愛し、まるで眼球でも守るみたいに囲い込んでいる、と。

だが、誰も知らなかった。

あの男に、娘がいることを。

沈村薫子は、あまりにも深く隠されていた。松野博ですら一度も掴めなかったほどに。T市の界隈にも、噂の欠片ひとつ落ちていない。

理由は単純だ。

沈村芳明ほどの立場の人間が「娘持ち」だと知られた瞬間、それがどんな形のスキャンダルであれ、政界での命取りになる。積み上げた地位は一気に崩れる。

だから沈村薫子は、存在しない...

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