第85章

林原助手が息を切らしながら人波をかき分け、追いついた瞬間――その場で固まった。

暴走して大破した黒いセダンは、フロントが完全に潰れている。ボンネットの隙間からは、もくもくと黒い煙が噴き上がっていた。

そして松野博は、目を真っ赤にして、変形した窓ガラスを拳で狂ったように叩き続けていた。

手の甲は割れたガラスで裂け、皮膚がめくれ、血が滴っている。それでも痛みなど感じていないみたいに、彼は力任せに歪んだドアをこじ開けた。

全身血まみれで意識のない沈村薫子を、車内から抱き上げた、その瞬間。

林原助手も背筋が凍った。

事故に遭ったのが、まさか沈村薫子だなんて。

松野博は沈村薫子をきつく抱...

ログインして続きを読む