第90章

沈村薫子は彼を見つめたまま、何も言わなかった。表情は氷みたいに冷え切っている。

本来なら、同情してもいいはずだった。

ただの子どもだ。病に苦しめられている、何も知らない子。罪なんてあるはずがない。

それでも――どうしてだろう。

沈村芳明に瓜二つの顔。澄んだ声で呼ばれる「お姉さん」。

その二つが重なった瞬間、胸の奥から、憐れみというものが一滴も湧いてこなかった。

可哀想だと思ったのは、ただ一つ。

この子が沈村芳明と泉原順子の息子だという事実だけだ。

あんな親を持つこと自体が、不幸だ。

沈村一樹は薫子が黙っていても怒らず、きょとんと首を傾げた。次いで、宝物でも差し出すみたいに、...

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