第2章 暗夜の女の子
二日前の夜、M国の国境にある廃ビル——
「止まれ！」
「このあま、まだ逃げるつもりか？」
何十階建ての高層ビルで、数人の屈強な男たちが暗闇を駆け抜けていった。
彼らの低い呪いの声に混じって、細身の少女が彼らの追跡をすばやく避けていた。
おそらく男たちの追跡があまりにも近かったため、彼女は突然立ち止まり振り向くと、地面に捨てられた錆びた鉄パイプを手に取りしっかりと握った。
男たちは急停止し、彼女を完全に取り囲むと、顔に残忍な表情を浮かべた。
「てめ！俺たちと戦うつもりか？早く物を出せ！」
「ふっ」
暗闇の中の女が唇を曲げて微笑み、後ろに下がりながら、数十階建ての高層ビルの端に足を踏み出した。
風が彼女の服の裾を揺らし、明るい月の光が興味深げな彼女の瞳を照らし出した。
「それなら、取りに来なさいよ」
彼女は手のひらの鉄パイプを持ち上げ、両手が血まみれであることも気にせず、ただこの連中を早く片付けたいと思っていた。
しかし数人の男たちはこの危険な状況を見て顔を見合わせ、躊躇した。
「誰が先に行くんだ？」
「お前がボスなんだから、お前が先だろ！」
先頭の短髪の男は小さく呪いの言葉を吐いたが、動かなかった。
この女は簡単に手を出せる相手ではない。手加減を知らず、若いのに人を殺すことさえ恐れない！
数人がまだ躊躇している間に、女が手にした鉄パイプを振り回し、突然攻撃を開始した！
彼女はまずボスの頭にパイプを叩きつけ、気絶した彼を一蹴りで吹き飛ばした。
「早く一緒に行け！」
彼らが反応して慌てて命令を出した時には、女は既に鉄パイプを更に素早く振り回していた。
彼女は急所だけを狙い、この連中を生かして帰すつもりはなかった。
しかし一人の女が七、八人の男たちと対峙するうちに、次第に体力が追いつかなくなり、手の力も弱くなっていった。
ついに鉄パイプが弾き飛ばされ、高層ビルの端に追い詰められた。
一瞬の膠着状態と思案の末、彼女は突然、最も戦闘力の高い二人の男の股間を蹴り上げた！
彼らが足を抱えて地面に倒れて悲鳴を上げるのを見ると、女は躊躇うことなく身を翻して飛び降りた。
百メートルの高さだ！数人の男たちは驚いて前に駆け寄ったが、女は落下していなかった。
彼女の黒い影が幽霊のように下の階に着地し、そのような方法で次々と下へ移動していくのが見えた！
数人は階段へと走り、追いかけていった。
この時、女の両手のひらの傷は、先ほどの行動で更に広がっていた。
皮膚が裂け、血だらけで、激しく痛んでいた。
しかし彼女は動きを止めず、この連中に捕まるつもりは全くなかった！
彼女は夜の闇の中を巧みに移動し、相手がまだ追いついていないうちに、身につけていた目立つコートを素早く脱ぎ捨て、頭のゴムを一気に引き抜いた。
黒い巻き毛が一瞬にして肩に落ち、セクシーなレースのキャミソールを半分隠し、彼女の曲線美のあるボディラインを微かに強調していた。
長ズボンは太ももまで裂かれ、魅惑的な白い脚が魂を誘うように、色気に満ちていた。
彼女は普通の女から、一瞬にして妖艶で魅惑的な美女へと変貌を遂げた。
女は振り向くと、地元で有名なバー「隠れ家」に直接入っていった。
数人の男たちは影のようなものが中に入るのを薄々と見て、よろよろと追いかけてきたが、バーの入り口で突然立ち止まった。
「まさかここに入ったのか？」
この一見平凡に見えるバーには、彼らが手を出せないオーナーがいた。
誰も彼の顔を見たことがなかったが、噂によれば彼の身分は並外れたもので、市長でさえ腰を曲げて彼にお辞儀をし、自ら車のドアを開けるほどだった。
彼の手段はさらに残忍さで有名だった。
数人は困惑した。
「誰かを探すために入るだけなら大丈夫だろう？花道兄貴も只者じゃないし、『隠れ家』のオーナーも物事の分別はつくはずだ」
裏社会のルールは便宜を図ることだ。「隠れ家」のオーナーがそれを理解していないはずがない。
男たちは自信を持ち、揃って中に入った。
騒がしい音楽と妖しい光景が目の前に広がり、未明の「隠れ家」は賑わいを見せ、男女が熱く絡み合って踊っていた。
誰も今入ってきた女に関心を示さず、この数人の男にも気づく人はほとんどいなかった。
彼らが階下を捜索している間に、女は地下室のドアを手早く開け、素早く中に入って静かに閉めた。
中は真っ暗で何も見えなかったが、誰も彼女がここに来たことを知るはずがなかった。
松本渚は冷たい壁に背中をつけ、ようやく安堵のため息をついた。
数時間続いた精神的緊張と逃走で、今の彼女には力が残っておらず、非常に疲れていた。
しかし次の瞬間、息を止めた。
地下室には彼女だけではなかった！
微かな男の息遣いが素早く近づき、松本渚は身を翻して避けようとしたが、不意に大きな手に両手を捕らえられた！
この男はあまりにも大柄で、驚異的な力を持ち、もう一方の手で彼女の肩をきつく押さえ、彼女を完全に壁に押しつけた。
壁の冷たさが胸に押しつけられ、男の体が間近に迫り、松本渚は怒りを覚えた。
「離せ！」
背後の頭上から彼の冷たい声が聞こえた。
「誰だ？」
今の松本渚には抵抗する力がなかったが、それでも危険を感じ取ることができた。
これは明らかに普通の男ではなかった。彼女は声を柔らかくし、嘘をついて逃げようとした。
「ただお酒を飲みに来ただけで、嫌な男に追いかけられて、ここには誰もいないと思って隠れただけです。すみません、今すぐ出ていきます」
しかし彼女の肩にかかる力が突然強くなり、松本渚は痛みに唇を噛み、小さな呻き声を漏らした。
男は目を伏せ、その声を聞いて体の変化を抑えるのがほとんど難しくなった。
彼は突然手を放し、怒りを抑えた声で言った。
「出て行け！」
その声には、かすれた声と忍耐が混じっていた。
暗闇の中、松本渚は男の表情を見ることができなかったが、何かがおかしいと気づいた。
これは薬を盛られたのか？
バーのような場所でこのようなことが起きても不思議ではない。
しかし彼女はよけいな世話を焼くつもりもなく、ただ外の追っ手よりも危険に思えるこの男から早く離れたいと思った。
松本渚が手を伸ばしてドアを開けようとした時、ドアの外で誰かが立ち止まり、見覚えのある男の声が聞こえてきた。
「ここに隠れてるんじゃないか？開けて見てみるか？」
彼女は即座に半歩後退し、一切の音を立てないようにした。
しかし背後の暗闇から男が突然口を開いた。
「三秒やる、早く出て行け！」
このように魅惑的な女が彼の側にいると、ほんの小さな声でも彼の体内に熱を引き起こした。
彼は既に彼女にチャンスを与えた。このまま出て行かなければ、この後のことは彼自身でも制御できなくなるだろう。
