第30章 彼女のストラップを引き上げる

その高級スポーツカーは走り去り、松本渚は腕を組みながら隣の男を見た。

「藤原さんは、ただの人じゃないみたいね」

安城市の警察署長が自ら彼のためにドアを開け、丁重に接するような人物がどんな身分なのか、想像するのも難しかった。

松本渚は帝都についてあまり詳しくなかったが、権力というものについては理解していた。

おそらく、帝都の普通の名門家でさえ、安城市の山崎家が手の届かない存在なのだろう。

そして目の前にいる藤原時は、さらに彼女が関わるべきではない人物だったのだ。

アシスタントの車がすでに到着し、藤原時はすぐにドアを開けた。

「君に買ったネックレスはホテルに送ってある。取りに行...

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