第5章

 緒方智也という男は、昔から勘が鋭い。

 荻野さんがあれほどあからさまに匂わせたのだ、彼が気づいていないはずがない。

 私はもともと体が弱く、長年薬に頼る生活を送ってきた。医師からも、今の状態で妊娠を継続するのは母体へのリスクが高すぎると、子供を諦めるよう勧められていた。

 私としても、この子を理由に緒方智也との関係をずるずると引き延ばすつもりはない。

 手術の数日前、私はあの家を出た。彼と顔を合わせて、余計な波風が立つのを避けたかったからだ。

 もっとも、正直なところ……緒方智也にとっては、私のことなどどうでもいいのだろう。

 彼は私を探しに来ることもなく、相変わらずの日々を謳歌していた。

 荻野さんが、ある動画を送ってくれた。

 どこかのオークション会場だろうか。緒方智也が衆人環視の中で小笠原玲奈にダイヤの指輪をはめてやり、感極まった小笠原玲奈が彼の胸に飛び込む様子が映っていた。

 まるで恋愛ドラマのワンシーンのように、美しい光景だった。

 そうだ、うっかり忘れるところだった。

 緒方智也は、自分の口ではっきりと言ったのだ。小笠原玲奈が帰ってきた、と。

 相原沙耶だろうが、相原沙耶の子供だろうが、そんなものはすべて後回しなのだ。

 それでいい。

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