第4章

西村成実視点

朝の五時、私はすでに目を覚ましていた。

正確に言えば、一睡もしていなかった。一晩中寝返りを打ちながら、健太の言葉が頭の中で繰り返されていた――「学生時代に、こういうささやかな悪戯が好きだった奴がいたのを思い出したよ」

これは間違いなく、私への宣戦布告だ。

疲れきった体を引きずってベッドから出て、鏡の前で身なりを整える。

どうでもいい。どうせ今日が、私の最後の抵抗になるかもしれないんだ。

午前十時、ヒルトンホテル、三十五階の豪華な会議室。

エレベーターのドアが開いた時、私はまるで処刑台に向かうような気分だった。会議室はすでにS市の広告業界のエリートたちで埋め尽くされ、誰もが仕立てのいいスーツに身を包み、成功者の自信を漂わせている。

健太は窓際に立ち、数人のクライアントと談笑していた。今日、彼が着ているのは深いネイビーのカスタムスーツで、銀色のカフスボタンが陽光を浴びてきらめいている。彼が振り返って私に気づくと、その瞳が私の安物のスーツを一瞥し、口の端がわずかに吊り上がった。

その表情……六年前、私が皆の前で恥ずかしさのあまり死にそうになっていたのを、あいつが見ていた時とまったく同じだ。

「成実」彼がこちらへ歩み寄り、低い声で言った。「準備はいいか?」

私は平静を装って頷いた。「もちろんです」

だが、それから二時間、私はまるで実験用のモルモットになった気分だった。

健太は意味ありげな視線を送り続け、私が発言するたびに、表情の些細な変化まで観察するかのように、じっと私を見つめてきた。クライアントが企画を紹介している間も、必死に集中しようとしたが、頭の中は昨夜からの妄想じみた憶測でいっぱいだった。

これは間違いなく罠だ。あいつは私を監視して、しくじるのを待っているんだ。

私は「普通」を装うことに努めたが、そうすればするほど緊張は増していった。クライアントからクリエイティブの方向性について質問されても、私の答えはしどろもどろで、いつもの調子とはほど遠かった。

健太は私の向かいに座り、指で軽くテーブルを叩いている。そのリズムは、まるで破滅へのカウントダウンのようだった。

会議の中間休憩中、私は神経を落ち着かせようとコーヒーを求めて、ホテルのラウンジへと逃げ込んだ。

「やあ、高橋広告の西村成実さん、ですよね?」

背後から温かい声がした。振り返ると、太陽のように明るい金髪のハンサムな男性が、純粋な好意のこもった笑みでこちらを見ていた。三十代前半くらいだろうか、体にフィットしたグレーのスーツを着ているが、会議室にいる真面目くさった重役たちとは対照的に、リラックスした魅力を放っている。

「私のことをご存じで?」驚いて尋ねた。

「もちろんです!」彼は手を差し出しながら言った。「ニューエッジ・クリエイティブの社長、井上剛です。西村さんの仕事は業界でも有名ですよ。特に去年の環境キャンペーンのシリーズ――あれはまさに天才的でした」

耳を疑った。私の仕事を認めてくれる人がいるなんて。しかも、競合相手が?

「ありがとうございます……」久しく感じていなかった温もりを感じながら、彼の手を握り返した。「まさか……」

「競合相手に褒められるとは思わなかった、と?」剛さんは完璧な白い歯を見せて笑った。「クリエイティブに境界線はありませんよ。優れた仕事は尊敬に値します」

会議室の方へ目をやると、健太が美咲と何かを話し込んでおり、私のことなど完全に無視している。

「あのクライアントは特にうるさいですが」と、剛さんが親切にアドバイスしてくれた。「でも、画期的なアイデアは大好きですよ。あまり伝統に縛られない方がいいです」

なんてことだ、自社の上司より競合相手の方がよっぽど親切じゃないか。

そのあまりの対比に、めまいがした。高橋広告ではいつクビにされてもおかしくないと感じているのに、見ず知らずのこの人が、私が今まで経験したことのないプロとしての評価をくれたのだ。

午後三時、会議終了。

私が資料をまとめ、健太と一緒にオフィスに戻る準備をしていた時、剛さんが近づいてきた。

「西村さん、この後コーヒーでもどうです?」彼の誘いは気軽な響きだった。「競合相手だってことは分かってますけど、少しお話ししてみたくて――純粋に個人的な興味です」

私はとっさに、何か指示や手掛かりを求めて健太の方を見た。だが、彼はすでにエレベーターに向かって歩き出しており、その背中は冷たく、よそよそしかった。

「社長?」私は呼び止めようとした。

彼は振り返りもせず、言った。「一人でオフィスに戻れ。午後の仕事がまだ残ってる」

ただ、それだけ。会議はどうだったかという問いかけも、車は必要かという気遣いも、視線を合わせることすらない。

私はそこに立ち尽くし、まるで捨てられた子犬のような気分だった。

「君の上司は、部下の気持ちなんてあまり気にしないみたいだね」剛さんの声は柔らかかったが、その一言一言が胸に突き刺さった。

健太の姿がエレベーターに消えていくのを見つめながら、奇妙な苦々しさがこみ上げてくる。

どうして彼はあんなに冷酷でいられるんだ? なぜ私は、そんなことを気にしてしまうんだ?

「コーヒー、いいですね」私は剛さんに言った。「カフェインが必要です」

ホテル近くのおしゃれなカフェで、午後の心地よい雰囲気がようやく私の張り詰めた神経をリラックスさせてくれた。

剛さんはラテを二つ注文し、私が砂糖を入れないのを気を利かせて覚えていてくれた。私たちは窓際の席を見つけ、ブラインド越しに差し込む陽光がテーブルにまだらな影を落としている。

「会議での西村さんの洞察、素晴らしかったですよ」と剛さんが言った。「消費者心理の琴線に触れるポイントの分析――あの角度から考えた人は、ほとんどいなかったでしょう」

自分の発言を、誰かがそんなに注意深く聞いてくれていたなんて信じられなかった。高橋広告では、私のアイデアは無視されるか、健太に冷たく一蹴されるのが常だった。

「本当に、役に立ったと思いますか?」

「もちろんです!」剛さんの目が輝いた。「西村さんのクリエイティブなアプローチは独特だ。高橋広告では、宝の持ち腐れでしょうね」

その言葉は、まるで針のように、私の一番敏感な部分を正確に突いた。

「高橋健太は有能かもしれないが」剛さんはどこか同情的な口調になり、続けた。「だが、彼はあまりに……冷たすぎる。才能を評価する方法を知らないんだ」

私は感情の揺れを隠そうと、コーヒーカップを手に取った。だが、剛さんの言葉はあまりにも的を射ていた。

それから一時間、剛さんは自身の起業ストーリーを語ってくれた。彼もまた大企業で働き、見過ごされ、正当に評価されないという不満を経験し、ついに独立を決意したのだという。

「私がニューエッジ・クリエイティブを立ち上げた動機はシンプルです」彼は真摯な光を目に宿して言った。「クリエイティブな人間が、非情な会社の階層構造に抑圧されるんじゃなく、一人ひとりがその才能を開花させられるようにすること、です」

私は、彼のその弱さを見せる姿に深く心を動かされていた。健太の孤高で謎めいた態度とは違い、剛さんは本物の弱さと、それを乗り越えてきた強さを見せてくれた。

「 ご存知ですか、成実さん」彼は私を見つめ、声を和らげた。「同じ志を持つ人を見つけるのは、簡単なことではありません。私たち、友達になれたら嬉しいです」

彼はジャケットの内ポケットから優雅なデザインの名刺を取り出した。そのロゴはシンプルでありながら洗練されている。

「もし今の会社で不満があるなら、いつでも気軽に連絡してください」

名刺を受け取る時、私たちの指先がかすかに触れ、微かな電流が走るのを感じた。剛さんの手は温かく、常に冷たい健太の手とは対照的だった。

理由もなく、心臓の鼓動が速くなった。

夜七時、私はオフィスに戻った。

明かりは数えるほどしかついておらず、健太のオフィスはドアが閉まっている。まだ中にいるのかどうかは分からなかった。

自分のデスクに座り、剛さんの名刺を取り出して何度も眺める。

午後の温かい陽光、剛さんの誠実な笑顔、そして「いつでも気軽に連絡してください」という言葉を思い返した。

もしかしたら……もしかしたら、これが私がずっと探していたチャンスなのかもしれない。

その時、背後から冷たい声がした。

「残業か」

弾かれたように振り返ると、少し離れた場所に健太が立っていた。その瞳は、私の手に握られた名刺に注がれている。

私は慌てて名刺をしまい、激しく脈打つ心臓を抑えながら言った。「きょ、今日の会議のメモを整理していて……」

健太が一歩近づくと、あの慣れ親しんだ威圧感が戻ってきた。

「井上剛、か」彼は、私には読み取れない感情を声に含んで言った。「随分と魅力的じゃないか」

どう返事をすればいいのか分からなかった。

健太は私の答えを待たず、自分のオフィスの方へ向きを変えた。ドアの前で彼は立ち止まり、振り返らないまま言った。

「完璧すぎる人間には気をつけろ、成実」

そう言い残すと、彼はバンッという音を立ててドアを閉めた。

私は暗闇の中に座り込み、二つの力の間に挟まれたような感覚に陥っていた。片方には、健太の冷酷さと謎。もう片方には、剛さんの温かさと誠実さ。

私は再び剛さんの名刺を取り出した。窓から差し込む月光がその上に落ち、闇の中でスローガンをひときわ際立たせていた。

[創造性が、チャンスと出会う場所]

もしかしたら、本当にこれが私のチャンスなのかも……

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