第2章
「考えているのは……」瑛太は言葉を区切った。にやにやしている顔が目に浮かぶ。「結婚式当日だよ。俺は、テレビ番組みたいにドタキャンするんだ。みんなの前で、あいつをあの白いドレスのまま、ぽつんと立たせておく。想像できるか?」
部屋は爆笑と歓声に包まれた。
息が、できなかった。文字通り、肺に空気が入ってこない。彼は私を、結婚式場にひとりで立たせたいのだ。両親の前で。私の友人たちの前で。彼の友人たちの前で。私たちの知人全員の前で。人々がひそひそと囁き、スマホをチェックし、憐れみの目で私を見つめる中、私に待ちぼうけをさせたいのだ。考えうる限り最悪の方法で私に恥をかかせたい。そして、それを世界で一番面白いことであるかのように、友人たちと笑い合っている。
「えげつねぇな、おい!」
「容赦ねぇ!」
「だが天才的でもあるな!」
手の感覚がなくなった。ケーキの箱が滑り落ちる。
床に叩きつけられた。チョコレートとクリームがそこら中に、カーペットの上に、私の靴の上に、飛び散った。
私の中のすべてが、しんと静まり返った。
「今の音は何だ?」瑛太の声が、今度は鋭くなる。
「たぶん、ただのサーバーだろ」と誰かが言った。「とにかく、それで結婚式当日、どうやってやるつもりなんだ?」
彼の答えを聞くのを待たなかった。私は走った。
ただ足が動いた。廊下を抜け、エレベーターに乗り、ロビーを突っ切る。受付係が私の荷物について何か言っていたが、止まれなかった。息ができない。考えられない。
ホテルのドアを押し開け、水辺のベンチを見つけるまで歩き続けた。
そして、私は壊れた。
吐き気を催すほど激しく泣いた。どれだけ顔を拭っても止まらない、熱く、怒りに満ちた、屈辱的な涙。
八年間、私は修平を追いかけた。そしてようやく諦めがついたとき、ようやく他の誰かに対して何かを感じることを自分に許したとき、それはすべて偽物だった。修平への復讐。
瑛太は、私を愛したことなんてなかった。
それが何よりも心を抉った。彼が私を抱きしめてくれたすべての夜。すべての約束。彼が何か月もかけて計画してくれた、花火のプロポーズ。
ひとつ残らず、すべてが。嘘だった。
午前三時の空港は、ほとんど誰もいなかった。椅子で眠る旅行者が数人ちらほらいるだけで、あとは清掃員が床にモップをかけているだけだ。私はゲート近くの隅に座り、腫れあがった目で搭乗券を見つめていた。
瑛太の声が頭の中で何度も再生される。『真由に近づいたのは、修平をむかつかせるためだけだ』『あいつが修平に執着してた八年間、吐き気がしたよ』『あの白いドレスのまま、立たせておけ』
初めて修平に会ったのは十五歳のとき。十五歳。ただの恋する愚かな子供だった。それが八年間の片想いになり、彼が決して礼を言わない誕生日プレゼントを送り続け、彼がスタンドの私に一度も目を向けない極寒の中の試合を観戦し、私が彼の宿題のほとんどを片付け、翌日には彼が私の名前をかろうじて覚えている程度の勉強会に付き合った。
そんなとき、瑛太が現れた。修平との関係の最後の二年間、私がどれだけ哀れな存在になったか、ようやく気づき始めていた頃だった。瑛太は……違った。彼は私に気づいてくれた。私が言ったことを覚えていてくれた。朝早い授業があるときには、コーヒーを持ってきてくれた。私がまだ修平に夢中だった二年間、彼は私を追いかけてくれた。そして決して諦めなかった。
私がついに修平を諦めたとき、決して振り向いてくれない人を追いかけるのはもうやめだと自分に認めたとき、瑛太はそこにいた。それからさらに一年かけて、私は自分の心を整理した。瑛太への本当の気持ちを自分に許す前に、修平の最後の欠片まですべて消え去ったことを確かめた。確信が必要だった。彼への気持ちがリバウンドでも、絶望でも、妥協でもないことを知りたかったのだ。
私がついに瑛太に「はい」と答えたとき、それは本心だった。二年後、彼があの花火でプロポーズしてくれたとき、私は躊躇しなかった。見つけたと思った。
自分の幸せを見つけたと、思ったのだ。
スマホが震えた。瑛太からのメッセージだ。「もう会いたいよ、真由。君と結婚するのが待ちきれない」
文字が滲むまで、私はそれを見つめた。
そして、目を拭った。息を吸う。
「結婚式で私に恥をかかせたいって言うなら」私はがらんとしたターミナルに囁いた。「その気持ち、まずはあんたに味わわせてあげる」
スピーカーがパチパチと音を立ててアナウンスを始めた。「ただいまより、XXX行き朝日航空847便の搭乗を開始いたします。ご利用のお客様は――」
私は立ち上がり、肩をまっすぐに伸ばし、ゲートに向かって歩き出した。
私は家に帰る。微笑む。何事もなかったかのように振る舞う。
そして瑛太に、この結婚式のすべてを――すべての感情、すべての瞬間、すべての労力を、注ぎ込ませる。
そうしたら、消えるのは私の番だ。
