第4章
公園での撮影から六日後、私たちは町の東側にある古い映画館へと車を走らせた。
その映画館は三年前と寸分違わぬ姿だった。点滅するネオンサインも、ひび割れた歩道も同じ。私はカメラを構え、チケット売り場の横に立つ瑛太にレンズを向けた。
「準備いい?」と私は尋ねた。
彼は頷き、あの優しい微笑みを私に向けた。
録画ボタンを押した。
「ここが、真由と私が本当の意味で最初の瞬間を迎えた場所なんだ」瑛太が語り始めた。「何度かデートはしたけど、まだ真剣な付き合いじゃなかった。その夜、私たちは何かラブコメを観たんだ。タイトルはもう覚えてない。でも、暗闇の中で彼女の隣に座りながら、ずっとその手を握ることばかり考えていたのは覚えてる」
彼の顔がちゃんと映るように、少しズームインする。
「映画が終わって、みんな急いで車に戻っていく中、私たちは立ち止まった。ちょうど、そこの角で」彼は出口近くの影になった場所を指差した。「そして、彼女にキスをした。その瞬間、これがただの憧れじゃないってわかったんだ。本物なんだって」
「カット」私はカメラを下ろした。「完璧だったよ」
「ほんと?」彼は満足そうな顔をした。
「すごく良かった。もういくつか、別のアングルからも撮らせて」
それから二十分ほど撮影を続けた。瑛太は、どれだけ緊張していたか、あのキスがすべてをどう変えたか、そしてその瞬間に私と生涯を共にしたいとどう確信したかを語った。どの言葉も心からのものに聞こえた。どの仕草も本物に見えた。
二年間の嘘。彼は随分と練習を積んできたわけだ。
「コーヒーでも飲まない?」瑛太が腕時計を確認した。「通りの向かいに、あの店があるだろ」
「ええ」
カフェはいつもの土曜の夜の客で混み合っていた。私たちは奥にある小さな仕切りのあるボックス席を見つけた。少し使い込まれた合皮張りの、座ると少し体が沈み込むようなクッション性のあるシートだった。瑛太は私に断りもなく二人分の注文をした。彼はいつもそうだった。
以前は、それが素敵だと思っていたのに。
テーブルの上で彼のスマホが震えた。画面が光る。
莉奈から、「会いたい❤️」
全身の血の気が引くと同時に、頭に血が上るのを感じた。
瑛太は素早くスマホを掴んだ。
「誰から?」私は平静を装って言った。
「ああ」彼は私と目を合わせようとしない。「大学の友達。卒業式の写真のことで訊いてきてる」
「土曜の夜八時に?」
「時間の感覚がちょっと変な奴なんだ」彼は立ち上がった。「トイレ。すぐ戻る」
彼が歩いていくのを見ていた。廊下に出る前から、もうスマホを耳に当てている。
ウェイトレスがコーヒーを運んできた。私はカップを両手で包み込み、消えていく泡をただ見つめていた。
莉奈。ホテルの部屋で聞いた名前だ。
一口飲んだ。味がしなかった。
十分後、瑛太はすっかり落ち着いた様子で戻ってきた。席に着くなり、何事もなかったかのように結婚式の話を始める。花屋には最終的な人数を伝える必要があるとか、私のドレスの試着は今週か来週か、とか。
頭の中では悲鳴が渦巻いているのに、私はすべてに機械的に答えていた。
家に着くと、私は瑛太に頭痛がするから先に寝ると告げた。彼はほっとしたような顔で、自分も疲れたと言った。
パジャマに着替え、寝室の電気を消して、布団に潜り込んだ。目を閉じて、まるで眠っているかのように、ゆっくりと安定した呼吸を続けて待った。
やがて、瑛太が起き上がる気配がした。彼は静かに動き、鍵を手に取り、スマホを確認する。玄関のドアがカチャリと閉まる音がした。
三十数えた。それから布団を跳ね除け、ジーンズとパーカーを羽織って、自分の鍵を掴んだ。
車に乗り込むと、私のスマホが震えた。
「真由、急に悪かった。裕介の友達が交通事故に遭ったんだ。病院に向かってる」
私は画面を睨みつけた。
「そんな!その子は大丈夫なの?どこの病院?」
「P市立病院。待ってないで寝てて。長くなるかもしれないから」
私はスマホをドリンクホルダーに置き、エンジンをかけた。
P市立病院は北にある。瑛太の車は東へ向かっていた。
道中ずっと、私たちの間には三台の車を挟んだ。彼は一度もミラーを確認しなかった。するわけがない。私が家で、とっくに眠りについている――従順な婚約者だと思っているのだから。
二十数分後、彼は四季ホテルの駐車場に車を滑り込ませた。繁華街にある、屋上バーと、正装したドアマンが立つ高級ホテルだ。
私は通りの向かいに車を停め、エンジンを切った。
そして、待った。
瑛太が車から降り、ジャケットを整える。まるでデートの準備でもするかのように、サイドミラーで髪をチェックした。
実際、その通りだったからだ。
ホテルのエントランスから、一人の女性が出てきた。若い。二十二か二十三くらいだろうか。長い黒髪に、短いドレス。可愛らしい子だった。
彼女は彼のもとへ歩いたのではない。駆け寄ったのだ。
二人は抱き合った。彼の腕は彼女の腰に固く回され、彼女の顔は彼の胸に埋められていた。やがて離れると、彼は彼女の手を取った。
まるでこれまで百回もそうしてきたかのように、二人は連れ立ってホテルの中へ入っていった。
私のスマホが鳴った。画面に瑛太の名前が光る。
自分の声に自信が持てるまで、三回コールを鳴らしてから応答した。
「もしもし」
「真由、今病院に着いたところ。裕介の友達、結構ひどい怪我だけど容体は安定してる。あと数時間はここにいるかも」
彼の息遣いが聞こえた。それだけ。病院の音はしない。館内放送も、医者を呼ぶ看護師の声も聞こえない。
「そっか、よかった。安定してるなら」
「うん。待ってないで寝てて、いい?ちゃんと寝るんだよ」
「わかった。愛してる」
「私も愛してるよ」
電話を切り、ハンドルを握りしめたまま、ただそこに座っていた。
堪えようとした。本当に、そうしようとした。
でも次の瞬間には、私は嗚咽していた。額をハンドルに押し付け、全身を震わせながら。息もできず、喉が焼けつくような、獣みたいな醜い泣き方だった。何もかもが空っぽになるまで、涙が枯れるまで泣いた。
それから、震える手でスマホを掴んだ。
ホテルのエントランスの写真を撮る。タイムスタンプははっきりと「午後11時47分」を示していた。
自分宛に送信する。「三つ目の証拠、四季ホテル、午後11時47分。瑛太と莉奈」
袖で顔を拭い、車をスタートさせて家路についた。
午前2時。
自宅の仕事部屋は、デスクランプの明かりを除いて真っ暗だった。日記帳を取り出し、新しいページを開く。まだ手が震えていて、ペンが紙の上をふらついた。
「カウントダウン、残り15日」
「今日は、瑛太と私が初めてキスをした映画館で撮影をした。彼はそこに立って、まるで神聖なものであるかのように、あの瞬間について語った。私にキスしたことが、彼がこれまでにした何よりも大切なことだったかのように。私は心の底から、彼を信じたかった」
一度、書くのをやめた。目を閉じる。そして書き続けた。
「それから、彼のスマホに莉奈からのメッセージが届いた。ハートの絵文字付きで『会いたい』。誰なのかと尋ねると、瑛太は私の顔を見て平然と嘘をついた。卒業式の写真のことで訊いてきた誰かだと。彼は私が馬鹿だとでも思ったのだろうか?私が気づかないとでも?
今夜、彼は裕介の友達のために病院へ行かなければならないとメッセージしてきた。私は彼を尾行した。すべきじゃないとわかっていたけど、自分を止められなかった。彼は代わりに四季ホテルへ向かった。外で莉奈と会うのを、私は見ていた。何年も会っていなかったかのように抱き合う二人を。手をつないで中に入っていく二人を。
通りの向かいの車の中から、彼に電話した。無事に病院に着いたかと尋ねた。彼は『うん』と答えた。私がそのホテルの入り口を睨みつけ、彼がどこにいるか正確に知っているとも知らずに、彼は真っ直ぐに嘘をついた」
視界が滲んだ。強く瞬きをして、書き進める。
「瑛太、どんな気持ちだったかわかる?あなたが彼女を選ぶのを、ただ座って見ているのが。あなたが私から、私たちから、私たちがなるはずだったすべてから、歩き去っていくのを見ているのが。まるで誰かが私の胸に手を突っ込んで、まだ動いている心臓を無理やり引きちぎっていくような感じだった。」
スマホからホテルの写真を印刷し、ページに貼り付けた。止まらない手の震えにもかかわらず、その下に丁寧な文字で日付を書き込んだ。
それから日記帳を閉じ、暗闇の中でただ座っていた。
残り十五日。
私ならできる。やらなければならない。
なぜなら、瑛太は今夜私が感じたことと全く同じことを、これから味わうことになるのだから。そして彼は、自分を本当に愛していた人間を壊すことの代償を知ることになるのだから。
