第10章 療養センター

綾辻詩織はソファに座り、指で軽く膝を押さえながら顔を上げた。手話で問いかける。

『どこへ連れて行ってくれるのですか?』

榊宗佑は微かに笑みを浮かべ、穏やかな口調で言った。

「気持ちが楽になれる場所ですよ。あなたの治療にも役立つかもしれません」

綾辻詩織は一瞬沈黙し、目を伏せた。指を組み、無意識に手の甲を揉む。

やがて、彼女はゆっくりと頷いた。

三時間後、車は静かな療養センターの前に停まった。

ここは鬱蒼とした木々に囲まれ、鳥のさえずりと草木の香りが空気中に溶け込み、都会の喧騒からかけ離れていた。

建物は決して華やかではなく、低い棟が一つ並んでいるだけだが、窓は明るく清潔で、得難...

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