第3章 その純粋な愛を侮辱する

葛城彰人は綾辻詩織の様々な感情を見てきた。

甘える姿、目を細めて微笑みながら彼を見つめる姿、そして怒ったふりをする姿。

しかし、そのどれもが。

綾辻詩織の瞳には常に光が宿っていた。今のように、まるで天の川が一瞬で流れ去り、後に残ったのは墜落と死の静寂だけ、というようなものではなかった。

葛城彰人の心臓が、不意にどきりと音を立てた。

何かとても大切なものが、自分の人生から滑り落ちていこうとしているかのような感覚。

彼の目に、一層の冷たい霜が降りた。

「綾辻詩織、一体いつまで騒ぐつもりだ?俺がお前のことなど気にかけるとでも思っているのか?お前は華蓮と比べたら、彼女の指一本にも及ばない」

葛城彰人の言葉は、ひどく辛辣だった。

怒りの下には、彼自身の微かな期待も込められていた。

たとえ綾辻詩織が彼に腹を立てたとしても、それでもよかった。

あるいは、彼に絡んできたり、口論をふっかけてきたりしても。

だが、そういった感情は一切なかった。

綾辻詩織はただ深く彼を一瞥し、もう一度、彼の顔の輪郭を目でなぞった。

彼女は彼を伊織の身代わりと見なしていたが、捧げた感情は本物だった。

その一瞬の静止に、葛城彰人の心にはすでに希望の光がよぎっていた。

彼は語気を和らげた。「よく考えてほしい。結婚は軽々しく冗談で済ませるようなことじゃない。俺たちが一緒になったのは、篠宮家と綾辻家の圧力がきっかけだった。二度目のチャンスはないぞ」

綾辻詩織は無表情のまま、彼を見つめて言った。「冗談なんかじゃないわ。私は本気よ」

彼女の手話はゆっくりとしており、一つ一つの動作が葛城彰人にははっきりと見えた。しかし、彼はもう見たくなかった。

苛立ち紛れにネクタイをぐいと引き、怒りを込めて口を開いた。「お前が華蓮をあんなにひどい目に遭わせたんだ。俺はただ、謝罪に行けと言っているだけだ。綾辻詩織、悪事を働いておきながら、自分のわがままで全てを帳消しにできると思うな」

綾辻詩織の瞳に、嘲りの色がよぎった。

彼女は何もしていない。葛城彰人が言う悪事が一体何なのか、全く見当もつかない。

それなのに、これほど多くの罪を着せられなければならない。

彼女は手話を続けた。

「好きに考えればいいわ。今、私が望むのは離婚だけ」

彼女は手首を上げ、ちらりと時間を見た。

「あなたとこれ以上時間を無駄にしたくない。舞台の準備をしなくちゃ」

葛城彰人の目には、ますます苛立ちが募る。

「もうすぐお祖母様の誕生祝いだ。まずは俺と一緒に顔を見せに行くんだ。少なくとも、彼らを安心させる。俺たちのことは、誕生祝いが終わってから話そう」

「いいわ」

綾辻詩織はそう応じると、ためらうことなく控え室を後にした。

本来、中間の休憩時間はドレスを着替えるためのものだった。

しかし、今となってはもう間に合わない。

綾辻詩織は同じドレスのまま、再び舞台に上がった。

彼女は錐で刺すような痛みを必死に堪え、流れるような音符を奏で続けた。

幸い、全ては順調に終わった。

客席からの拍手は、雷鳴のように鳴りやまない。

綾辻詩織は堂々とした笑みを浮かべ、先ほど咲が手渡してくれた花束を抱き、客席に向かって感謝の礼をした。

その瞬間、彼女の目の奥は少し熱くなった。

自らの努力で、ようやくこのコンクールの舞台に立てたのだ。しかし、残された機会はもう多くはない。

観客席には、すでに葛城彰人と綾辻華蓮の姿はなかった。

綾辻詩織は振り返り、舞台上の白いピアノを一瞥した。

目の奥に浮かんだ一抹の苦々しさを隠すように。

舞台を降りた後、彼女はさらに鎮痛剤を二錠飲んだ。

そしてその時、乳母から突然メッセージが届いた。

乳母:【お嬢様、先ほどC国から小包が届きました。お嬢様のお名前が書いてあります。】

C国!

その二文字が、綾辻詩織の心臓に突き刺さった。

綾辻詩織:【すぐに戻ります。】

綾辻詩織は最速で家に戻った。

その表情は切迫し、道中は小走りだった。

心臓は高鳴り、目に浮かぶ焦りと緊張はほとんど抑えきれない。

C国から彼女宛に送られてくる小包は、あの人に関するもの以外に、二つとない。

リビングで、差出人の欄に榊伊織の名前が書かれているのを見た時、心の底に溜まっていた感情が一気に沸騰し、涙がこぼれ落ちそうになった。

六年前、彼女はその残酷な現実を受け入れられず、狂ったように彼の行方を捜し回った。

うつ病を患い、この世を去ろうとさえした時、乳母が慌てて綾辻家に連絡し、彼女は強制的に帰国させられた。

綾辻家が彼女のために開いた紹介パーティーで、彼女は憂鬱に沈んでいた。そこで、神壇から落ちた葛城彰人に出会った。

あの時、彼はカジュアルな服を着ていた。夢にまで見たその顔が目の前に現れ、冷ややかに彼女と視線を交わした。

その瞬間、光が再び彼女の世界に差し込んだかのようだった……。

六年ぶりに、榊伊織に関する知らせを聞いた。

綾辻詩織は震える手で小包を開けた。中には日記帳と、一通の手書きの手紙が置かれていた。

伊織の母:【これらは伊織の部屋を片付けていた時に整理したものです。日記帳にはあなたのことばかり書かれていたので、あなたに送るべきだと思いました。】

綾辻詩織の目の奥が熱くなる。

彼女は日記帳を手に取った。

榊伊織にはずっと日記をつける習慣があり、毎日、大小さまざまな出来事を記録していた。

綾辻詩織がページをめくると、そこに記録されている内容は、ピアノのこと以外は彼女のことばかりだった。

榊伊織:「10月5日、今日はどんよりした天気で、雨が降りそうだ。雨の日は嫌いだけど、また詩織に会って一緒にピアノの練習ができる」

榊伊織:「11月12日、詩織に花束を贈った。彼女の笑顔を見て、とても幸せだと感じた」

後半になるにつれて、内容はますます感傷的になっていった。

まるで命がカウントダウンに入ったかのように。

彼女の視界はぼやけ、涙が次々と手に滴り落ちて滲んでいく。

榊伊織:「時間がもっとゆっくり進めばいいのに。詩織のそばに、一生、永遠にいたい」

榊伊織:「神様、どうか僕たちを離れ離れにしないでください……一生病に苦しめられても構わないから」

そこには、彼らが共に過ごした日々が記録されていた。

そして、榊伊織が一度も口にしなかった、あの真摯な想いも。

綾辻詩織は床に膝をつき、力強く日記帳を胸に抱きしめた。

ずっと抑えつけていた嗚咽が、この瞬間、完全に決壊した。

榊伊織!

あんなにも優しく、いつも細やかに彼女を気遣ってくれた榊伊織。

どうして忘れられるだろうか。

乳母は痛ましげな目で綾辻詩織を見つめた。「お嬢様……」

綾辻詩織は赤くなった目でゆっくりと首を振り、手話で伝えた。「私は大丈夫」

この日記は、パンドラの箱のようだった。

綾辻詩織の記憶を、完全に呼び覚ました。

榊伊織と葛城彰人は全く違う人間だ。どうして似た顔というだけで、榊伊織を侮辱することができただろうか。

彼女は静かに拳を握りしめた。

この離婚は、絶対にしなければならない。

彼女は携帯を取り出し、葛城彰人にメッセージを送った。

綾辻詩織:【いつ時間がありますか。離婚手続きをしに行きましょう。】

葛城彰人:【明日時間がある。】

葛城彰人の返信は、ほとんど即答だった。

綾辻詩織の目に、皮肉な光がよぎった。

葛城彰人には本当に心がない。

少なくとも自分は彼の命を救い、この四年間、彼のためにこれほど多くを捧げてきたというのに。

あの頃の自分は狂ったように、榊伊織にできなかったこと全てを葛城彰人に埋め合わせたいとだけ願っていた。

ピアノを弾く手で、彼のために料理をした。

彼の身の回りの世話をした。

自分のキャリアさえも犠牲にした。

それで、彼女は何を得たというのだろう。

葛城彰人がこれほどあっさりと離婚に応じるのは、きっと妊娠している綾辻華蓮に正式な立場を与えるためだろう。

胸が少し痛んだが、彼女は眉をひそめ、手元の日記に目をやると、はっと我に返った。

綾辻詩織は一言、返信した。

【わかったわ。】

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