第48章 ピエロ猫、こんにちは

綾辻詩織は伏し目がちになり、その濃い睫毛が眼差しの奥の感情を覆い隠した。

彼女は淡々と手話で語り始める。

『私と葛城彰人は……かつて夫婦でした』

『でも、今はもう何の関係もありません。彼には想い人がいますから』

夏川巴は眉をひそめた。綾辻詩織が『想い人』という言葉に触れたとき、その指先が微かに震え、瞳の奥に一瞬苦渋の色がよぎったのを見て、事がそう単純ではないと感じ取ったからだ。

「へえ? そうなの……」

夏川巴は語尾を伸ばした。

その視線は、ローテーブルに置かれた薬瓶と榊宗佑の名刺の上を何気なく滑る。

「あの榊さん、あなたのことすごく気にかけてるみたいじゃない。よく来るの?」

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