第69章 早く逃げて

綾辻詩織の手が宙で固まり、言葉にできないやるせなさが込み上げてきた。

夏川巴がどんな反応をするか、色々と想像はしていた。だが、これだけは予想していなかった。

自分と夏川巴の間には、少なくとも同情にも似た友情が存在していると、ずっと思っていた。

しかし今となっては、それはどうやら自分の一方的な思い込みだったようだ。

夏川巴は綾辻詩織の手を振り払い、氷のような声色で言った。「お金の催促に来たんでしょ。家賃のこと?」

「今はないわ。一銭も」

「でも安心して。夏川巴はそんな、食い逃げして知らんぷりするような人間じゃないから」

「お金ができたら、一円も違えず必ず返すわ!」

彼女は腕の中の...

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