第71章 さらわれた

榊宗佑が力任せにドアを蹴りつけると、その衝撃でドアフレームから埃がぱらぱらと舞い落ちた。

その時、ばたばたと騒がしい足音が遠くから近づいてくる。

濃厚な酒の匂いとともに。

榊宗佑が振り返ると、夏川巴がふらふらとこちらへ歩いてくるのが見えた。

彼女は髪を乱し、アイメイクは滲んで黒い塊になっている。

安物のラメ入りアイシャドウが、朝の陽光の下でひどく場違いに見えた。

元々しわくちゃだった黒いTシャツは、今や汚れまみれで、鼻をつく酒の臭気を放っている。

夏川巴も、まさかこんな場所で榊宗佑に会うとは思っていなかったようだ。

彼女は一瞬呆然とし、酔っぱらった様子でげっぷを一つすると、呂律...

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